Episodios

  • 10月公開の必見映画3選――芸術・将棋・サスペンスの世界へ
    Oct 3 2025

    🔶 『おーい、応為』(10月17日公開)

    👉 公式サイトはこちら https://oioui.com/


    今月最初のおすすめは、浮世絵師・葛飾北斎の娘、葛飾応為(お栄)を描いた作品『おーい、応為』です。主演は長澤まさみさん。父・北斎を演じるのは永瀬正敏さんです。

    長澤さん演じる応為は、豪快で少し乱暴な言葉遣いながらも、繊細な筆致を持つ絵師。その姿は、芸術家としての葛藤と親子の絆を鮮やかに映し出しています。北斎役の永瀬さんも、重厚かつ人間味あふれる演技で、芸術家親子のせめぎ合いを力強く表現しています。

    監督は『日日是好日』で知られる大森立嗣さん。人間ドラマを丁寧に描く手腕が、本作でも発揮されています。特徴的なのは、時代劇でありながら西暦表記を用いるなど、一見すると意表を突く演出が盛り込まれている点です。

    また、劇中で応為が拾ってきた犬が引っ越しの度に荷車に座り続け、少しずつ成長していく姿で年月の流れを表現するなど、細部にまで工夫が光ります。女性浮世絵師として先駆的な存在であった応為の生きざまは、時代を超えて強い共感を呼ぶでしょう。


    🔶 『盤上の向日葵』(10月31日公開)

    👉 公式サイトはこちら https://movies.shochiku.co.jp/banjyo-movie/


    次にご紹介するのは、柚月裕子さん原作のベストセラー小説を映画化した『盤上の向日葵』です。主演は坂口健太郎さん。さらに渡辺謙さん、小日向文世さん、佐々木蔵之介さん、土屋太鳳さんら豪華キャストが出演しています。

    物語は、身元不明の白骨死体が発見される事件と、天才棋士の波乱の人生が交錯しながら展開します。坂口さん演じる青年棋士は、苦難の中で才能を開花させ、将棋の世界で頂点を目指す姿を見せます。師匠役として、小日向さんが温かく支える存在を、渡辺謙さんが賭け将棋の名人として迫力ある演技を披露。二人の対照的な師弟関係が物語に厚みを与えています。

    サザンオールスターズによる主題歌「くれゆく街の二人」も大きな見どころです。映画内で口笛として繰り返し登場し、切なさと哀愁を伴う旋律が物語を彩ります。人間ドラマとしてもミステリーとしても、強く心に残る作品です。


    🔶 『爆弾』(10月31日公開)

    👉 公式サイトはこちら https://wwws.warnerbros.co.jp/bakudan-movie/


    同じく10月31日に公開される『爆弾』は、サスペンス性あふれる一作です。主演は山田裕貴さん。共演に佐藤二朗さん、伊藤沙莉さん、染谷将太さん、渡部篤郎さんらが名を連ねています。

    物語は、酔っ払いとして取り調べを受けていた男が、突如「これから爆発が起きる」と予言。その言葉通りに連続爆破事件が発生していくという緊迫の展開です。佐藤二朗さんが演じる謎の男は、不気味さと狂気を併せ持ち、物語の中心で強烈な存在感を放ちます。刑事役の渡部篤郎さんは、佐藤さんとの対峙を通じてベテラン俳優としての重みを示しています。

    原作は呉勝浩さんの小説『爆弾』。江戸川乱歩賞を受賞した傑作ミステリーで、俳優陣も「原作の重みを背負って挑んだ」と語るほどの緊張感あふれる撮影となったそうです。緻密な構成と息詰まるサスペンスが、観る者を圧倒するでしょう。


    ⭐まとめ

    10月は、芸術と親子の絆を描く『おーい、応為』、将棋と人生を交錯させた重厚な人間ドラマ『盤上の向日葵』、そして狂気と予言に翻弄されるサスペンス『爆弾』と、濃厚なラインナップが揃っています。それぞれに異なるジャンルながら、観る人の心に強く響く作品です。

    映画解説研究者の上妻祥浩さんによる推薦でした。


    ゲスト:上妻祥浩/聞き手:江上浩子(RKK)


    Más Menos
    13 m
  • 思い込みが社会を揺らすとき――政治発言とSNS拡散を読み解く
    Sep 26 2025
    本日のテーマは「思い込み」です。政治家の発言やSNS上の情報が、根拠の不確かな“印象”や“思い込み”と結びついたとき、社会にどのような影響が生まれるのか――宮脇利充さんが具体例を手がかりに考え方の整理を提案します。🔶 奈良の鹿をめぐる発言――根拠はどこにあるのか総裁選の所見表明で取り上げられた「奈良の鹿」への迷惑行為を起点に、訪日客への規制強化を訴える発言が注目を集めました。一方で、管理当局側は“暴力行為の確認なし”との説明をしており、両者の主張に隔たりが見られます。宮脇さんは「政治家の言葉は社会に与える影響が大きい。事実関係を丁寧に示す姿勢が欠かせません」と指摘します。ポイント“見聞きした話”や“体感”が、統計や公式確認より先行すると誤解が広がりやすくなります。とくに移民・観光・治安など感情を刺激しやすいテーマでは、印象の増幅に注意が必要です。🔶 通訳不足で「不起訴」?――現場との食い違い同じ場で語られた「通訳確保が間に合わず不起訴」という趣旨の言及についても、実務側からは「そのような事例は把握していない」とする説明が紹介されました。宮脇さんは「データや事例提示なく『よく聞く』という言い方は、誤った前提を固定化しかねません」と述べ、エビデンス提示の重要性を強調します。🔵ポイント司法・警察運用には手続きの上限や代替手段が整備されているケースが多く、“印象ベース”の断定は慎重に。発言者の立場が高位になるほど、聞き手は“事実”として受け取りやすく、言葉の重みが増します。🔶 JICA「アフリカ・ホームタウン」構想と誤情報拡散国際交流を目的とした取り組みが「移民定住制度」と誤解され、自治体や機関に大量の抗議が殺到した一件も紹介。公式の否定が繰り返されても、SNS上の“確信”が抗議行動を持続させる構図が浮き彫りになりました。🔵ポイントSNSのアルゴリズムは、自分の確信を補強する情報を“集めて並べる”傾向があり、偏りに気づきにくくなります。公式ソースの一次情報(発表資料・FAQ・窓口)を確認する「逆引き」習慣が、誤拡散のブレーキになります。🔶 スポーツの国際舞台に見る“リスペクト”の回路世界陸上のように、国籍や背景を超えて互いの努力を讃える場面がある一方で、SNSでは“敵/味方”の二分法が加速しがちです。宮脇さんは「同じ“世界を見る”でも、接し方次第で態度は大きく変わる。まず落ち着くこと、そして確かめることが出発点です」と呼びかけます。🔶 今日はここを持ち帰る:思い込みに飲み込まれない5つの習慣出所を見る:誰が、いつ、どの立場で述べた情報かを必ず確認します。一次情報に当たる:記事なら元資料、発言なら全文・動画・逐語をチェックします。反証を探す:賛成の根拠だけでなく、反対の根拠も並べて比較します。数と手続き:統計・制度・運用の“仕組み”を確認し、個別体験の一般化を避けます。言葉の重み:影響力のある人の発言は“事実”として流通しやすい――受け手も発信側も自覚します。「確かめて、落ち着いて、考える。思い込みの速度を、いったん緩めましょう」(宮脇利充)🔶 まとめ政治の場でもSNSの空間でも、“印象”が“事実”を上書きすると、社会の議論は荒れやすくなります。大切なのは、根拠を確かめる手間と、違う意見に耳を澄ます余裕です。宮脇さんは「自分の中の思い込みにも光を当てたい」と結びました。出演:元RKKアナウンサー・宮脇利充さん/聞き手:江上浩子(RKK)
    Más Menos
    13 m
  • 家庭と学校の“協育”をもう一度――PTAの価値とこれから
    Sep 19 2025
    🔶 テーマの背景:教育は学校の“専売特許”ではありません田中慎一朗校長は「教育は、家庭と学校が一緒に子どもを育む営みです」と強調します。市教育委員会内では先月、「家庭と学校の連携について考える会」(PTAのあり方を含む)が発足し、田中校長も委員として参加しています。第1回会合では、現役PTAや学校現場の声を交え、今後の方向性について議論が始まったところです。🔶 いまPTAに起きていること:加入率低下と“休止化”近年、PTAの加入率は下がり、学校によっては活動が休止状態という例も見られます。前提としてPTAは任意団体であり、加入の有無で子どもが不利益を受けてはならない――これは大前提です。そのうえで田中校長は、「PTAは学校と家庭をつなぐ、大切な“橋”であり続けてきました。なくなることで失われる機能は小さくありません」と指摘します。🔶 PTAの“3つの機能”:なくして気づく基盤インフラ1. 共助機能(助け合い・ピアの支え)大会遠征や活動に伴う費用の一部補助など、会費を原資に“いざ”というときの支えになります。経済的支援だけでなく、悩みや不安を分かち合うピア(同じ立場)コミュニティとして機能します。転入直後など、相談先が見つけにくい家庭の受け皿にもなります。2. 監督機能(監視ではなく“モニタリング”)学校は「子どものため」を軸に全力で動きますが、ときに“思い”が先行して硬直化することもあります。PTAは保護者代表として、行事や運営、学習・生活指導の進め方に建設的な意見を出し、学校と対等な立場で改善を促す存在です。個別の苦情が“全体の声”なのかを確かめる手続き(集約・合議)を担い、校長や学校側の相談相手(セーフティネット)になります。3. 教育機能(“教える”から“共に育てる”へ)強い一方通行の指導が通りにくい今こそ、学校と家庭が“指導の一貫性”を共有し、共に育てる体制が不可欠です。学校ツアーや校内観察、職業講話・体験(キッザニア型企画)など、PTAが“学びの場”を開発・運営することで、地域ぐるみの学びが広がります。出水南中では、PTA活動が評価され文部科学大臣表彰を受けるなど、機能の可視化にも結びついています。「PTAは“学校の下部組織”ではありません。保護者の代表として、学校と“対等に”子どもたちの最善を考えるパートナーです」(田中校長)🔶 誤解されがちなポイント:任意加入と“公平”の両立任意加入は不変:加入しないことによる不利益はあってはなりません。組織の透明性がカギ:会計・意思決定・役割分担を“見える化”することで、非加入の理由(負担感・不透明感)を減らせます。“関わりやすい小さな参加”を用意:ワンショットのボランティア枠、オンライン会合、タスク細分化で参加障壁を下げます。🔶 出水南中の実践アイデア(再現可能なヒント)学校ツアー&コメントバック:保護者目線の気づきを学校へ“伴走フィードバック”。職業講話・体験デー:保護者の専門性を学びに変換、キャリア教育の共同設計。三者パートナー会議:生徒会長×PTA会長×校長が同じテーブルで、校内課題を“協議→合意→実装”。🔶 これからのPTAデザイン:5つの提案ミッション再定義:「子の最善の利益」を憲章化し、活動を“目的ドリブン”に。役割のマイクロ化:1時間・単発・オンラインOKの“小さなジョブ”を量産。情報のオープン化:議事録・予算・効果測定を簡潔にWeb共有。合議の仕組み:個別意見→PTAで集約→学校へ提案の標準ルートを整備。評価と表彰:関わりの可視化(バッジ・感謝状・SNS紹介)でモチベーションを回す。🔶 まとめ:PTAは“なくすか/残すか”ではなく、“進化させる”田中校長は、「PTAは学校にとって“良き友人”です。時に支え、時に諫め、共に育てる。いま必要なのは“今のまま”ではなく、“これからの形”を共に考えることです」と結びました。教育は学校だけでは担いきれません。家庭と学校、そして地域が“協育”の視点で手を結ぶとき、子どもたちの学びと安心は確かなものになります。出演:熊本市立出水南中学校 校長・田中慎一朗さん聞き手...
    Más Menos
    13 m
  • あの渋滞を減らすのはあなた ― 熊本の交通課題と解決への道
    Sep 12 2025

    🔶 熊本の渋滞、道路整備だけでは解決できない課題

    週末の夕方、多くの人が車の中で渋滞に巻き込まれています。熊本でも道路整備は進んでいますが、渋滞解消にはなかなかつながっていません。西環状道路の開通もありますが、便利になれば車が集中し、結果的に渋滞が増えるという“いたちごっこ”の状況です。

    この現実を踏まえ、熊本県は「道路を作れば解決」という発想だけでなく、民間と協力して取り組む仕組みを導入しました。


    🔶 熊本県渋滞対策パートナー登録制度の取り組み

    県は今年5月から「熊本県渋滞対策パートナー登録制度」をスタートしました。

    これは、時差出勤・テレワーク・公共交通の利用など、企業が主体的に渋滞解消に取り組むことを促す制度です。

    登録企業にはロゴマークが交付され、「渋滞対策に取り組んでいる企業」であることを示せます。

    8月29日時点で、264の事業者が登録済みです。ライブ配信ディレクターの斉場俊之さんが率いる「さいばーとれいん」も登録第1号企業として名を連ねています。


    🔶 AIで見えた登録企業の傾向

    斉場さんは、県が公開している登録企業データをAIで独自に分析しました。

    その結果、製造業や事務系の職種が多く登録していることが判明しました。

    これらの企業は「9時始業・17時終業」といった時間帯が固定されやすいため、時差出勤やリモートワークに取り組みやすい傾向があります。

    一方、小売業など「顧客が来店する時間に合わせざるを得ない業種」は、登録が少ないという特徴も見られました。


    🔶 行政に求められること

    行政に対しては「車を使わない選択肢を提供してほしい」と斉場さんは語ります。

    熊本市内は自転車移動もしやすい一方で、自転車専用レーンや着替えの設備が少なく、ビジネス利用には課題があります。バスは本数が少なく遅れも多いため、利用者が安心して乗れる環境整備が必要です。


    🔶 事業者への提案 ― 配送や集客の工夫

    企業には「車を使わない工夫」を求めたいと斉場さん。例えば、配送時間を朝の渋滞時間帯から夜間にシフトさせる取り組みや、大型店舗での「催事渋滞」への対策として、混雑する時間帯ではなく空いている時間帯に来店した顧客へ特典を与える仕組みも考えられます。駐車場料金の差別化なども一案です。


    🔶 県民一人ひとりにできること

    渋滞に巻き込まれることは「時間とお金の損失」だと斉場さんは指摘します。車の中で動けずに費やす時間は失われた人生の一部であり、ガソリン代も無駄になります。

    スーパーで1円単位の節約を考えるのと同じように、「渋滞を避ける工夫」も個人が取り組むべき課題です。公共交通を使える場面では積極的に使うことも重要です。


    🔶 まとめ ― 渋滞解消は“あなた”から始まる

    熊本県の「渋滞対策パートナー登録制度」は9月いっぱい、企業の登録を受け付けています。

    制度に限らず、行政・企業・そして県民一人ひとりが意識を変えることで渋滞は減らせるはずです。

    「渋滞を減らすのは、あなた」

    この言葉が示すように、解決の第一歩は身近な行動の見直しから始まります。

    出演:ライブ配信ディレクター 斉場俊之さん

    聞き手:江上浩子(RKK)


    Más Menos
    13 m
  • 今月の映画おすすめ3選――記憶と現在、極限のサバイバル、そして“炎上”の向こう側
    Sep 5 2025

    終戦から80年の節目を過ぎ、いま観るべき3本が揃いました。カズオ・イシグロの長編デビュー作を原作にしたミステリアスな人間ドラマ、実話ベースの深海サバイバル、そしてSNS時代の「無実の加害者」を描くサスペンス。内容の重さは異なりますが、どの作品も“いま”を考えさせてくれます。


    🔶遠い山なみの光(9月5日公開)


    👉 公式サイト:https://gaga.ne.jp/yamanami/

    イシグロ文学の“余白”がスクリーンでささやく。

    1980年代のイギリス。日本人女性(吉田羊)のもとを、疎遠だった娘が訪ねてきます。物語はそこから1950年代の長崎へと行き来し、若き日の彼女(広瀬すず)と、謎めいた女性(二階堂ふみ)との出会いが、静かな緊張を帯びてほどけていきます。原爆後の街の空気、家族や婚姻、義家族(三浦友和が印象的)との関係──“語られないこと”が語る、イシグロらしい余韻が核です。

    見どころ


    • 1980年代ロンドンと1950年代長崎を織り交ぜる構成が生む“捉えどころのなさ”。

    • 広瀬すず×二階堂ふみ、対照と共鳴で進む女性同士の心理線。

    • 「本当は何が起きたのか」を観客に委ねるミステリー性。


    上妻さん評:「丁寧に観た人ほど“あ、そうか”が積み上がります。見終わって語り合いたくなるタイプの1本です」



    🔶ラスト・ブレス(9月26日公開)


    👉 公式サイト:https://lastbreath.jp/

    深海の限界時間、酸素メーターは容赦なく減っていく。

    スコットランド沖。海底パイプラインの修理任務中、支援船のトラブルで潜水士の1人が海底に取り残されます。残り酸素はわずか──船上と海中のチームが総力戦で挑む、実話ベースの“タイムリミット・サスペンス”。事故のドキュメンタリーを手がけた監督による劇映画化で、実際の船・技術・手順に基づく描写が緊迫感を跳ね上げます。

    見どころ


    • 飽和潜水の手順や機材運用をリアルに再現。

    • 「最後の一呼吸」へ収斂する編集と音。

    • 海の暗闇と狭小空間が作る極度の没入感。


    上妻さん評:「予告だけで手汗。『助かるのか?』が全編を貫きます」


    🔶俺ではない炎上(9月26日公開)


    👉 公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/oredehanai-enjo/

    “加害者にされた日”は、誰の明日にも起こりうる。

    普通のサラリーマン(阿部寛)が、SNSで殺人犯と名指しされます。拡散、特定、断罪。正義を名乗る群衆の暴走に、生活も人間関係も崩れていく──ヒッチコック譲りの“巻き込まれ型”を、現代日本のネット空間に移植。夏川結衣、芦田愛菜の存在感も濃く、特に芦田の啖呵は物語の芯を震わせます。冤罪スリラーでありつつ、それだけでは終わらない“もう一歩深い”問いを投げてきます。


    見どころ


    • 阿部寛の“普通さ”が恐怖を増幅。

    • 夏川結衣・芦田愛菜ほか脇の芝居が熱い。

    • 「発信する側」の責任を観客に返す構造。


    上妻さん評:「SNSの怖さが主題ですが、そこに留まらない。ネタバレ厳禁、劇場で確かめてください」


    ゲスト:上妻祥浩/聞き手:江上浩子(RKK)

    Más Menos
    13 m
  • ブレイディみかこ『女たちのポリティクス』と現在の政治状況 大阪万博の話も
    Aug 29 2025

    🔶 先週の続き――紹介できなかった一冊

    宮脇利充さんが先週紹介しきれなかった本、『女たちのポリティクス』(ブレイディみかこ著、幻冬舎新書、2021年刊)。

    刊行から4年が経っていますが、現代の政治状況と不思議なほど呼応する内容を含んでいます。

    著者ブレイディみかこさんは福岡市生まれ、イギリス在住のライターであり保育士。『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で知られ、英国社会のリアルを等身大で描く筆致で注目を集めました。


    *女たちのポリティクス 台頭する世界の女性政治家たち (幻冬舎新書)/ブレイディ みかこ (著)


    🔶 フェミニズムとナショナリズムの危うい結合

    同書の中で注目すべき章の一つが「小池百合子とフェミニズム」です。ここでブレイディさんは、ヨーロッパにおける「フェモナショナリズム(フェミニズム+ナショナリズム)」を紹介します。


    イスラム過激派による女性の権利抑圧に抗議するフェミニストの声が、極右ナショナリストに利用され、排外主義へと転化する構図です。ブレイディさんは、この枠組みを日本に置き換え、「ムスリム男性」を「おっさん政治」として捉えるべきだと提起します。


    共通の敵を設定して攻撃することで人気を得るのは、典型的なポピュリストの手法。短期的には憂さ晴らしになっても、長期的には自らの首を絞める危険性を孕んでいると警鐘を鳴らします。


    🔶 日本政治と「おっさん政治」批判

    宮脇さんは、直近の参議院選挙を振り返り、既成政党への不満から新興勢力に投票が流れる傾向を指摘しました。

    ただし、そこには理念や政策の根本的な相違を見極めず、「とにかく既存政治への対抗」として票が動く危うさが潜んでいると警戒します。


    🔶 小池百合子都知事と関東大震災追悼文問題

    「小池百合子とフェミニズム」の章ではもう一つ、関東大震災(1923年)後に起きた朝鮮人虐殺の追悼文問題に触れられています。

    歴代東京都知事が追悼文を寄せてきた中で、小池都知事は2017年以降、一度も寄せていません。


    9月1日、関東大震災から102年を迎える追悼集会で、小池知事が追悼文を再び寄せるのか、あるいは8年連続で見送るのか――政治家としての姿勢が問われています。


    🔶 万博が映す「国の顔」

    さらに宮脇さんは、大阪・関西万博を訪れた体験も語りました。各国パビリオンは「お国自慢」が中心で、文化や資源の豊かさを前面に出しています。しかし宮脇さんが求める「その国の課題や矛盾」といったネガティブな情報はほとんど見られませんでした。


    日本館は「持続可能な社会」をテーマに、会場内の廃棄物を燃料に電力を生み出す仕組みを展示。

    また、隣接するカルティエがサポートするウーマンズ パビリオンも注目されており、「フェミニストも非フェミニストも訪れる価値がある」と宮脇さんは強調しました。


    話し手:宮脇利充(元RKKアナウンサー)/聞き手:江上浩子(RKK)


    Más Menos
    13 m
  • 世界の女性リーダーを描くブレイディみかこ『女たちのポリティクス』を読む
    Aug 22 2025

    🔶 図書館で出会った一冊

    宮脇利充さんが図書館で偶然手に取った『女たちのポリティクス』(幻冬舎新書/2021年刊)を紹介します。刊行から4年が経ったいまも、内容は現在の政治状況に通じる示唆に富み、時間を超えて読ませる一冊だといいます。


    🔶 ブレイディみかことは誰か

    著者のブレイディみかこさんは1965年福岡市生まれ。イギリス・ブライトン在住のライターで、保育士としての経験も持ちます。代表作『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(2019年)は、英国の多様性や教育現場を等身大に描いて高く評価されました。


    🔶 世界の女性リーダーたちが照らす政治の現在地

    本書は、メルケル(独)、スタージョン(スコットランド)、蔡英文(台湾)、アーダーン(NZ)など各国の女性リーダーを取り上げます。コロナ禍対応で成果を上げた国々の分析を通じ、「女性だから」ではなく「ずば抜けて優秀だから」トップに押し上げられたという、ジェンダーを超えた資質論が示されます。決断の速さや推進力、的確な優先順位付けなど、危機下で光るリーダーシップの共通項が浮かび上がります。


    🔶 日本のジェンダーギャップと政治分野の遅れ

    世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で日本は依然として下位に位置し、とりわけ政治分野の遅れが目立ちます。4年を経ても構図が大きく変わらない現状に、本書の示唆はなお有効だと宮脇さんは語ります。


    🔶 小池百合子と“フェモナショナリズム”

    「小池百合子とフェミニズム」の章では、政治信条の一致・不一致を超えて支持が集まる背景を「フェモナショナリズム(フェミニズム×ナショナリズム)」という概念で読み解きます。女性の権利を政治的手段として利用する動きは欧州右派の女性リーダーにも見られ、日本文脈では“おっさん政治”への反発が特定勢力を利する危うさにも注意を促します。


    🔶 いま読む意義――「性別より資質」を見抜く眼

    コロナの記憶が薄れつつある今こそ、本書は危機下の統治に必要な資質を思い出させます。

    女性か男性かではなく、難局で結果を出せる資質を持つ人物を選べているか――有権者の視点が問われている、と宮脇さんは結びます。


    話し手:宮脇利充(元RKKアナウンサー)

    聞き手:江上浩子(RKK)


    〇書籍情報

    書名:『女たちのポリティクス 台頭する世界の女性政治家たち』

    著者:ブレイディみかこ

    出版社:幻冬舎新書(2021年刊)

    URL: https://amzn.to/45Qa99y


    〇ジェンダー・ギャップ指数

    日本の順位:118位/148か国 (2025.6.12発表)内閣府男女共同参画局


    Más Menos
    13 m
  • 不確実な中にとどまる力──熊本市立出水南中学校・田中慎一朗校長が語る「ネガティブ・ケイパビリティ」と教育の営み
    Aug 15 2025

    お盆の時期、熊本市立出水南中学校の田中慎一朗校長は、教員生活の原点を思い起こさせる出来事を経験しました。

    新任時代の教え子たちが帰省に合わせて集まり、同窓会のような再会の場を設けてくれたのです。

    「当時の生徒たちはやんちゃで、バイクを乗り回したり、体育館の袖でタバコを吸ったりと、毎日が戦いでした」と田中校長は振り返ります。当時は新任教師として必死に指導しても、反発ばかりでわかり合えたとは言い難い日々。それでも田中校長は、教え子たちのそばを離れず、関わり続けました。


    🔶“先生と飲みたい”と言われた瞬間

    再会した教え子のひとりはこう語りました。

    「大人になって、一緒に飲みたい先生と、そうでない先生がいます。田中先生は会いたいと思える先生でした」

    この言葉に、田中校長は胸を打たれたと言います。当時は反抗期真っ只中でふてくされていた生徒たちも、大人になって改めて“そばにいてくれた存在”の意味を感じていたのです。


    🔶教育は結果がすぐ出ない営み

    田中校長は、この経験から「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を想起しました。直訳すれば「否定的能力」ですが、ここでいう“ネガティブ”とは悲観ではなく、「不確実な状態にとどまり続ける力」を意味します。

    もともとは英国の詩人ジョン・キーツが、劇作家シェイクスピアの作風を評する中で友人に宛てた手紙に登場した言葉です。勧善懲悪ではなく、人間の多面性や曖昧さを描ききる力。それを後世の人々が教育や医療、福祉など幅広い分野で引用するようになりました。


    🔶結果を急がず“揺れ”に寄り添う

    教育現場でも、子どもの行動や態度はすぐに変わるとは限りません。

    「不登校や望ましくない行動に直面すると、すぐに解決策を探し、成果を求めたくなります。しかし、うまくいく時もあれば、そうでない時もある。その“揺れ”に寄り添い、関わりを止めないことが大切です」と田中校長は語ります。

    これは子育てにも通じます。親は結果をゴールに据えがちですが、子どもはそれぞれのタイミングで変化します。表面には出なくても、心の中では少しずつ反応や変容が起きているのです。


    🔶“居続ける”ことが信頼を生む

    新任時代、田中校長は結果が見えなくても、反発や嘘に直面しても、生徒のそばを離れませんでした。その姿勢が、後年「信用してみようと思ったきっかけだった」という生徒の言葉につながります。

    「教育技術が特別にあったわけではありません。関心を持ち続け、居続けること。それが最終的に子どもの心に届いたのだと思います」と田中校長。


    🔶不確実性に耐える力が今こそ必要

    現代社会は「すぐ結果を出さなければ」という焦りに駆られやすく、うまくいかないとイライラしてしまうことも少なくありません。

    「だからこそ、不確実な中にとどまり続ける力が必要です。教育も子育ても、営みそのものが大切なのです」と田中校長は力を込めます。


    出演:熊本市立出水南中学校 校長 田中慎一朗

    聞き手:江上浩子


    Más Menos
    13 m