不確実な中にとどまる力──熊本市立出水南中学校・田中慎一朗校長が語る「ネガティブ・ケイパビリティ」と教育の営み Podcast Por  arte de portada

不確実な中にとどまる力──熊本市立出水南中学校・田中慎一朗校長が語る「ネガティブ・ケイパビリティ」と教育の営み

不確実な中にとどまる力──熊本市立出水南中学校・田中慎一朗校長が語る「ネガティブ・ケイパビリティ」と教育の営み

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お盆の時期、熊本市立出水南中学校の田中慎一朗校長は、教員生活の原点を思い起こさせる出来事を経験しました。

新任時代の教え子たちが帰省に合わせて集まり、同窓会のような再会の場を設けてくれたのです。

「当時の生徒たちはやんちゃで、バイクを乗り回したり、体育館の袖でタバコを吸ったりと、毎日が戦いでした」と田中校長は振り返ります。当時は新任教師として必死に指導しても、反発ばかりでわかり合えたとは言い難い日々。それでも田中校長は、教え子たちのそばを離れず、関わり続けました。


🔶“先生と飲みたい”と言われた瞬間

再会した教え子のひとりはこう語りました。

「大人になって、一緒に飲みたい先生と、そうでない先生がいます。田中先生は会いたいと思える先生でした」

この言葉に、田中校長は胸を打たれたと言います。当時は反抗期真っ只中でふてくされていた生徒たちも、大人になって改めて“そばにいてくれた存在”の意味を感じていたのです。


🔶教育は結果がすぐ出ない営み

田中校長は、この経験から「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を想起しました。直訳すれば「否定的能力」ですが、ここでいう“ネガティブ”とは悲観ではなく、「不確実な状態にとどまり続ける力」を意味します。

もともとは英国の詩人ジョン・キーツが、劇作家シェイクスピアの作風を評する中で友人に宛てた手紙に登場した言葉です。勧善懲悪ではなく、人間の多面性や曖昧さを描ききる力。それを後世の人々が教育や医療、福祉など幅広い分野で引用するようになりました。


🔶結果を急がず“揺れ”に寄り添う

教育現場でも、子どもの行動や態度はすぐに変わるとは限りません。

「不登校や望ましくない行動に直面すると、すぐに解決策を探し、成果を求めたくなります。しかし、うまくいく時もあれば、そうでない時もある。その“揺れ”に寄り添い、関わりを止めないことが大切です」と田中校長は語ります。

これは子育てにも通じます。親は結果をゴールに据えがちですが、子どもはそれぞれのタイミングで変化します。表面には出なくても、心の中では少しずつ反応や変容が起きているのです。


🔶“居続ける”ことが信頼を生む

新任時代、田中校長は結果が見えなくても、反発や嘘に直面しても、生徒のそばを離れませんでした。その姿勢が、後年「信用してみようと思ったきっかけだった」という生徒の言葉につながります。

「教育技術が特別にあったわけではありません。関心を持ち続け、居続けること。それが最終的に子どもの心に届いたのだと思います」と田中校長。


🔶不確実性に耐える力が今こそ必要

現代社会は「すぐ結果を出さなければ」という焦りに駆られやすく、うまくいかないとイライラしてしまうことも少なくありません。

「だからこそ、不確実な中にとどまり続ける力が必要です。教育も子育ても、営みそのものが大切なのです」と田中校長は力を込めます。


出演:熊本市立出水南中学校 校長 田中慎一朗

聞き手:江上浩子


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